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紅筆はどこへいった

 投稿者:理柚メール  投稿日:2018年 6月11日(月)23時34分18秒
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  満ちたりることはなく
欠けているものが 何なのかもわからない
悲劇でも喜劇でもなく
その舞台の主役でもない
日々は白い釉薬のように
ゆっくりと流れてゆくだけで
それを止めることなど
君にはできるわけがない

何も捨てないし何も得ない
はじまらないので おわりもない
ただ 彼の横顔を盗み見て
ひとつふたつ うたをつくって
くちびるに色を差す高鳴りくらいは許されてもいい
と 君は自分に言い聞かせる
世の中は空恐ろしいほど便利になって
どれだけでも賢く 狡くやっていけるというのに
彼の指の小さな傷と どこか懐かしいまなざしを
記憶の中だけで どれだけ鮮明に残せるかを考える
どうしたら あんなにきれいに笑えるのかを考え続ける
それはもう滑稽なほど懸命に


満ちることを恐れて
欠けすらも補わない
悲劇でも喜劇でもあり
主役を降りることは許されない
日々は白い釉薬のように
とろりとほころびを隠してゆくので
そこから逃げることなど
君にはできるわけがない

今日で会えるのは最後だというのに
彼の顔は 西日にかき消されて見えず
無理に笑おうとした君のくちびるが切れる
戒めのごとく錆の味が広がって
もう君は何処へも行けないし 行かない
 
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