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足跡のない場所目指して

 投稿者:  投稿日:2018年 7月11日(水)11時32分12秒
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  ボーッと歩いてたらいつの間にか迷ってた。往路なのか帰路なのかも、何のために歩いていたのかも忘れていた。

見慣れない巨大な都市を見て、大海原に一人 流木に掴まって漂流しているような気分になった。

イワシの群れのようにメインストリートを行き交う人々を眺めて思う。
奴等は一体どこに向かってるんだろう?
いっそ この群れに飛び込めば、何処かに辿り着くのかもしれない。
そんな考えがよぎった時、路地裏の入り口で座り込んで物乞いをしているホームレスが目に入った。

イワシの群れの後ろでその空間だけ濁って見えた。ちょうど流れをせき止めされたダムのように。
気付けば自然と足がそちらに向かっている僕は自分自身に呆れた。
きっと こんな風に目の前のものを追ってるうちに道に迷ったのだ。

路地裏のホームレスは近くで見ると灰色でフケだらけの髪をしていた。
長い前髪の奥に警戒心の強い瞳がこちらを覗いている。
道を行き交う人々がイワシならこいつは貝だ。
堅い殻に込もって弱い部分を必死で隠してる。

ホームレスは僕に気付くと自分の前に置いてあった缶を差し出して言った。
[腹が減ってる いくらかカンパしてくれないか? ]
僕は汚い缶の中に入っている100円玉を一個、取り出してホームレスに逆に尋ねた。 [これ みんな集めてるけど何でなの?]
ホームレスはムッとした顔で、[そりゃあ 生きていくには必要だろう早く俺の金を返せ。] と怒鳴った。
[怒らないでよ 。ちょっと道に迷ったんだ。道を訪ねたくてね。]
[どこに行きたいんだ?]
[それを忘れちゃってね ]
[からかってるのか? 商売の邪魔だから帰ってくれ]
[商売? 惨めな物乞いだろ。何も売ってないくせに]
[同情だ。同情を売ってる。]
[今の台詞は気にいったよ。 けどそれがおっさんの商売なら おっさんはずっと不幸じゃないといけないね。 ]

こんな感じで散々不毛なキャッチボールがをして気付けば二人路地裏で酒を飲みながら意気投合していた。
それから一ヶ月間、おっさんと並んで同情を売ったがあまり金にならなかった。
きっと僕には不幸が足りないからだ。

ある日、 僕は通りを行き交う人々を指さして ずっと思っていたことを 訪ねた。
[奴等についていったら 、僕は何か思い出すかな? ]
それを聞いたおっさんは悲しい目をして  [そんなことをしたら、きっと後悔することになる。 ]と答えた。
僕がそんなものかなぁって顔をしてたら、今度はおっさんが僕に尋ねた。
[お前は一体何がしたいんだ?]
頭の中でその質問を何度も反芻させて僕も僕自身に尋ねた。 けど返ってきた答えはゴビ砂漠より漠然としたものだった。
[まだ、誰もやったことのないこと。]
[ならお前は誰もいない場所へ行かないといけないね 。 ]おっさんは笑ってそう言うと缶の中にあるお金を全部僕に手渡した。
[金は何かと必要だろ。]と言って。

バスを何度も乗り継ぎながら変わっていく景色を眺める。
ついにはバスもなくなって砂漠の中を月明かりを頼りに一人歩き出す。
足跡のない大地が僕を脅しながらも、ここはお前だけのものなのだと囁く。
でももしここで何も見つからなかったら?
夜の冷たい風がそんな意地悪なことを聞くなら、僕はこう答える。
[ その時は空き缶でも拾って同情を売るさ。]





 
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