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百合、咲く日

 投稿者:レノン  投稿日:2020年 1月15日(水)05時22分12秒
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  「家中がいい匂いになるでしょう
だから大好きなの」
無邪気に微笑んで
玄関に飾った白い百合を眺めた

あの日から
あなたに贈る花は
百合と決めています

花粉で汚れないようにと
雄しべの外し方を教えてくれた
贈った鉢百合を庭に植え替え
何度も咲かせてくれた
朗らかに丁寧に暮らした人

古い時代の古い家で
嫁を務めたかつての辛苦を
声を詰まらせて話しながら
同じ思いは決してさせないと
包み込むように迎え入れてくれた

手探りの子育てをそっと支え
「子供にとってママは太陽なのよ
ママが笑っていればきっと大丈夫」
ふわりとそんな言葉をくれた
優しくて強い人

あなたとの日々は
春の日差しが背中をあたためてくれるような
心地よい温度で私を満たしました

それなのに
あまりに突然のことでした
早すぎる別れでした

「あの子に色々教えてあげてね
相談にのってあげてね 」と
いつもあなたが気にかけていた娘は
私の妹は
あなたを失い 光を失いました
底なしの暗い穴に突き落とされたような
果てない悲しみに胸を押しつぶされ
いつまでも彼女の目を濡らした涙
残された彼女の痛みを見る度に
残して逝くしかなかったあなたの痛みが
重なって見えました

帰省するといつもあなたと並んで立った台所
教わったり教えたりして一緒に手を動かした場所
そこへ今度は彼女と並び
盆暮れを迎えるようになりました
彼女は頑なに変えることを拒みました
鍋の配置をひとつ変えただけで
そこに残った愛しい気配が
消えてしまうのを恐れているようで
私は何も言えませんでした

抜け出す術は
時が経つこと以外にはないようでした
けれども時は 残酷なほど澱み
前へ進もうとしても
鎖のように絡みついた悲しみが
そうさせてはくれないのでした

真っ暗闇の中で
それでも彼女は必死かにもがいたのでしょう
重い鎖を引きずりながら
少しずつ進んでいきました
あなたの娘は
強い
何年もかけて
ようやく時は
さらさらと流れだしたようです

今日
この上ない喜びの光が
清らかに彼女を照らし出します
白無垢に身を包んだ姿は
柔らかな肌も その輪郭も あなたによく似て
美しく匂い立つようです
「若い頃はきれいだったのよ」と
照れながら見せてくれたアルバムの
花嫁姿に負けないくらい

おかあさん
あなたの百合が咲きました

あなたが大切に育てた花
蕾のまま固く閉じ 耐えてきた花
悲しみを乗り越え 優しさに出会い
今 輝くほどに咲き誇っています
どうかいつまでも
いつまでも

今度また
百合を届けに行きますね
燻る線香の向こうで
あの日と同じに微笑むあなたに










 
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