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想い出になる前に

 投稿者:中也  投稿日:2020年11月20日(金)11時59分1秒
  通報 編集済
  1.
「本日は教授回診です」
「患者様は、病室でお待ちください」
手術して5日目
ようやく自分で歩けるようになった
朝食を食べて少し横になっていた

しばらくして
白衣の集団が
教授らしき人を先頭に一列で
まるで珍しい生き物を観るように
私のベッドの周りを取り囲み
主治医が教授らしき人に
私のことを話していた
「痛みはないですか」
「回復してます。大丈夫ですよ」
一言声をかけた後病室を出て行った

ほんの短い時間であったが
私には気になることがあった
主治医の横にいた女医が
もしかして
中学時代の同級生ではなかったか
そんなことを考えていると
担当の看護師がやって来た
「教授回診びっくりしたでしょ」
「ええドラマと同じ感じですね」
看護師はまだ学校を卒業したばかり
私とは子どものような気がして
いろいろと話しをする
そんな仲になっていた
「田中先生とお知り合いですか」
「病状をすごく気にしてましたよ」
「あのさっきの女性の医師?」
「そうそうあのさっきの回診の」

2.
私の心をつかんで離さないアニメが
主人公が恋人とともに
全世界の人々を救うため
自分の生命をかけて戦うストーリー
このアニメに夢中になって

私のクラスは2年3組
いつも男女4人で
仲良く過ごしていた
いつも僕がアニメの話しをして
みんなで盛り上がる感じ

「ねえ、今度、駅の映画館行かない」
放課後教室を出ようとした時だった
「私、二枚映画の券を持ってるの」
「おとうさんからもらって」
「あのアニメ?」
「映画化されてたでしょ」
「今度の日曜日、一緒に行かない?」
「ああ、良いよ」
うれしいのに恥ずかしくて
素っ気ない返事をして教室を出た

結局、映画に行けなかった
昔の話なので
理由は良く覚えていない
ただ彼女が風邪を引いて
多分そうだった気がする
彼女とは同じ高校だったけど
一度も話しをしないまま
それっきりだった

3.
退院の前日
荷物を整理している時だった
病室のドアが開いた
見覚えのある白衣の女性だった
「久しぶり、覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ」
「医師になったんだ!昔から正義感強かったからな」
「佐藤くんはどんな仕事してるの」
「まあ、僕も君と同じように」
「毎日、人を助けているよ」
「医療関係じゃないけど」
「佐藤くん、昔と変わってないね」
「ええ、何が?」
「まあ、でもほんと良かったね」
「退院、おめでとう、無理しないで」
「ありがとう」
ほんの短い時間だった
聞きたいこともたくさんあった
映画に行けなかったこと
なぜ自分を誘ったのか
何も聞けなかったけど
それで良かったと

4.
人生はめぐり逢い
自分の意志に関係なく
引き合わされることも
自分の力で生きているつもりでも
こんな時に会うなんて
病気することも
彼女に会うことも
自分の力ではないから
これは偶然なのか  必然なのか

これからありのままに生きよう
今日を笑って過ごそう

※教授回診
    主に大学病院などで週に1回行われている。教授や専門部長が病室を医師たちと回診する。









 
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