新着順:29/18995 記事一覧表示 | 《前のページ | 次のページ》

神々の遺産

 投稿者:蓮見 丈メール  投稿日:2021年 1月12日(火)05時43分38秒
  通報 編集済
  周囲百三十kmの屋久島
鋭角に競り上がった山脈を
深い森が覆い
苦海に浮かぶ満開の
蓮の華のように
急峻な絶壁の続く海岸線沿いの
平坦部にのみ
人の営巣を許している

時が悠久にまで堆積した
暗緑の森には
屋久杉と特に呼称される
樹齢千年超の
杉の巨木が点在している
中には縄文杉と
別個に命名された
樹齢二千年超の
婚礼の最中の新郎新婦を
失神させてしまうものまである

屋久島の杉が通常の杉の寿命
五百年を優に超えて
千年単位で
生き長らえていられるのは
屋久島全体が隆起した岩山で
多雨のお蔭で繁茂する
苔の中に根を張りミリ単位の
緻密な成長を弛まず続け
抗菌作用の強い
腐り難い幹を育むから

そんな屋久杉の古木の樹上には
天空の植物園が見られる
古木の枯れ枝に着床した苔に
杉の枯れ葉などが絡まり
数百年をかけて腐葉土の層を形成し
そこに鳥や風や齧歯族が運んだ
ヤクシマシャクナゲや
ミヤマヤマシグレや
アクシバモドキなどの種が芽吹き
五月の終わりには
天球を砕いたように
色とりどりの花を咲かせる

他にはナナカマドや
ソヨゴやマメヅタラン
なども見られる

更にこうした山の豊かさに
海も相伴させて貰い
角を突き合わせた岩礁の谷間に
カクレクマノミや
チョウチョウウオや
スズメダイなど熱帯や
亜熱帯の魚を侍らせている

そこから海岸に目を向ければ
民家もあれば宿屋もある
無暗に人を拒みはしないが
島の中央に聳え立つ真骨頂は
粗野な好奇心や軽量な冒険心を
その威容を煮え滾る隋が
滲み出るまで掻き毟ってでも
決して寄せ付けようとはしない

一歩森に踏み入れば
至る所に枯れ枝や枯草に覆われた
獣たちの古い巣穴や風穴があり
安価な足取りを戒め
雨が降り出せば
天を仰ぐ間もなく
其処彼処の岩肌に急流が出現し
物見遊山を許さない

神々が地上に残した
秘境という名の
ビオトープ
人も含めた全ての生物を
肥えさせも
飢えさせもせずに
真理の恵みで養っている
 
》記事一覧表示

新着順:29/18995 《前のページ | 次のページ》
/18995