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百日紅

 投稿者:Liszt  投稿日:2021年 9月15日(水)18時05分54秒
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  容赦ない日差しに、いささか音を上げている昼下がり。
その上品な薄紅の花を見ると、ひととき暑さを忘れる。
滑らかな樹の肌が涼しさを感じさせるところもよい。
「暑中に一服」という言葉がぴったりだ。

しばらく眺めていると、房のように集まって咲き誇っている花のまわりに
様々な色合いの揚羽蝶が甘やかな香りに誘われてやってくる
―黒、白、黄、みずいろ…軽やかに舞い、蜜を吸っている。
花と蝶が織り成す、一幅の絵にみとれているうちに
いつしか忘れてしまう―都会の小さな公園にいることを。
そればかりか、彼方に長江の雄大な流れを望む、中国の庭園にいるような気がしてくる。

そんな幻想に誘われるのは、ひと夏を通じて長く花を咲かせている様子が、
散り際のよさ、儚さの美学とは違った、おおらかな悠揚迫らぬ風情を感じさせるからだろう。
とりわけ夏の盛りに現れる虫たちには、ごく限られたいのちしか与えられていないことを思えば、
際立った対照ではないか?

それでも、コオロギの声がいっそうはっきりと聞こえ始め、秋雨が続くころになれば、
さすがに花数も減ってきて、この樹も季節の移り変わりと無縁ではないことを感じさせる。

ところが、まさにそうした時期こそ、視線を変えて木蔭をのぞいてみるとよい。
散った花びらが地面に降り積もって、あざやかな淡紅色の絨毯を織り上げているからだ
―悠然と別れを告げているかのように。中国、なかでも六朝の貴族に愛され、宮廷や庭園に多く
植えられたのも、この樹が最後のときまで失わない華やかさのゆえだろう。

ただひとつ、気をつけなければいけないことがある。切り花には向かないのだ。
手折って花瓶に差しても直ぐに萎れてしまう。樹ではあれだけ長い間花を咲かせているのに…
まるで「人の手に落ちることは決して許されない」と言わんばかりだ。
きっと、江南の貴族の誇り高い気風を受け継いだに違いない。
 
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